ひとひろ

日常より、もう少し深いところへ。ひびのこと、たびのこと、ならのことを綴ります。

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【おそとのええとこ】 ふるきをたずねて 【マルト醤油 奈良-田原本町】

自分が何を食べているかを知る、これから何を食べるかを考える。
2019年3月に私が掲げていた目標です。懐かしいな。
酔った勢いで「まめサミット」がしたいと言い、友人らの協力を得て奈良県内のありとあらゆる大豆製品を集めてイベントをしたのでした。
若かったな、とも思うけれど、あのとき大豆にフォーカスした濃厚な時間を過ごしたからこそ、今の自分があるのかなとも感じます。

時は流れて。
豆への興味は薄れることはなく、毎年自家製味噌を仕込んだり、醤油は県内のお気に入りのものを使ったりして暮らしています。
そんな豆好きにとって夢のような場所へ、人生のご褒美として訪れてきました。

イベント「奈良の醤油のトビラ」へ

日本全国、各都道府県へ奈良の素敵なものを届けている「奈良のトビラ」。
平城宮跡でマンスリーイベントも実施され、こちらには常設店も設けられています。
今回のイベントのテーマが「奈良の醤油のトビラ」と聞いて、いてもたってもいられなくなり申し込みをしました。

ゲストは、「マルト醤油」を2020年に再び蘇らせた、十八代当主の木村浩幸さん。
1689年創業、奈良最古の醤油蔵である「マルト醤油」は、戦後の食糧難の時代に一度閉業。
残された蔵、麹菌、古文書、そしてかつてを知る土地の人々の記憶を頼りに、醤油づくりを再開させました。
きっと数々の困難を乗り越えられてきたのであろう木村さんの、優しくも確かな語りに魅了されて、聞き入る時間でした。
地元・田原本町の素材を使うという強い思いで仕込まれたお醤油、味わってみたい……!

トークを満喫したあとは、あじみ会で、奈良の美味しい調味料をあれこれ味わえます。
もちろん、マルト醤油さんのお醤油も!
まめサミットの時はまだ発売されていなかったので、私も口にするのは初めて。わくわくする!
みんな大好き「きたまち豆腐」さんのお豆腐をいただき、好きな調味料を載っけてゆきます。お豆腐がそもそも豆の味が濃くて美味しすぎました。

火入れなし、濾過なしの生揚げ醤油の美味しいことといったら!
日本酒でも無濾過生が大好きな私は大興奮でした。陶然とする味。火入れしたものも美味でした。

イベントを満喫し、ランチがてら気になっていたパフェをいただきます。
シャインマスカットが年々好きになる〜!

予習ばっちりで到着したのは

そして、車に揺られて。
やってきたのは、奈良県田原本町。

NIPPONIA 田原本 マルト醤油

はい、そうなんです。
「マルト醤油」は醤油を蘇らせただけではなく、現在、大切に残されてきた建物に宿泊できる施設になっているのです。
実はイベントの開催を知る前から、この日に宿泊を予定していたのでした。
なんたる偶然! 我々の引きの強さですよ。
予習を完璧にした、万全の状態で到着しましたよ。

「ト」の暖簾をくぐって……

大きなお屋敷は、ゆったりと過ごしやすい空間で。
レストランとして利用できるようになっていて、朝夕の食事はこちらでいただきます。

ウェルカムスイーツとしていただいたもろみを使ったケーキ。まるでチョコレートかと思うようなコクの深さでした。
美しいお庭を眺めながらうっとりだよ。

泊まれる醤油蔵「初瀬」

いざ、お部屋へ。
予約時にどのお部屋を選ぶか散々悩んだのですが、今回は「初瀬」というお部屋に泊まることに。

ここはもともと、醤油の原材料となる大豆を保管していた場所だそう。豆の魂と眠れる!(?)
広々としたお部屋なので、夫婦二人だとかなりゆったり過ごせる空間でした。
時計もテレビもない、ほんのりと暗い空間。落ち着きますね。

ラウンジ

お庭を挟んで向かいにある茶室はラウンジとなっており、フリードリンクが楽しめると聞いたので足を運ぶことに。

トークイベントで、ここに置かれているテーブルが豆のかたちをしていると伺っていたので「これか〜!」とテンションが上がりました。
お部屋の調度品含め、奈良県内の作家さんが作られたものが多数あるようで、そんなところも愛せる……

置かれていた豆菓子、大和高田市で作られたはちみつ大豆だったのですが、ぽりぽり食べられて最高でした。
まだまだ知らないものがたくさんあるなあ。
宇陀市の農家さんのジュースも美味しかった! 奈良のものがてんこ盛りで大はしゃぎです。
ゆっくり過ごしたかったのですが、体験の時間が迫っていたのでラウンジは軽めにして退出。

醤油搾り体験へ

わくわくしながら、館内を少し案内してもらいます。
昔使われていた竈門のあとや、醤油を搾った場所。そして最後に、しっかりとした扉をくぐると、醤油の香ばしい香りが。
かつての醤油蔵を生かし、現在も醤油が醸造されています。

我々の前には、小さな樽に分けられた、もろみ(搾る前の醤油のもと)が。
さらにそれをところてんを押し出す器具の中に入れ、自分たちの手で醤油を搾る体験ができます!
僭越ながら私、トップバッターでいかせていただきます。
ゆっくりと力をかけて押すと、じわじわっと醤油がにじみ出てきている!
参加者で順番に醤油を搾りおえ、「搾りたてのお醤油、食べてみたいと思いませんか?」の言葉にただこくこくと頷きます。
戻った我々の前に出てきたのは……

焼きたての、葛餅!
そのままで食べても、甘くてやわらかいそれに、搾りたてのお醤油をかけていただきます。なんたる贅沢。
芳醇な香りと、葛餅の甘さや香ばしさが絡まりあってたまらないよ。泣きたくなるくらい幸福なひとときでした。

お部屋でゆったり

楽しかったねえと言いながらお部屋に戻って、夕食の時間までしばし休憩。
お部屋の案内をしていただいたときに、夫も私も気になったものがあったのでフロントで借りてきました。

大和の野菜いろはカルタ。どこまで行っても私たちは奈良が好きなんだ。
二人でカルタとりってどないすんねん、と思われるかもしれませんが、クリエイティブに遊び方を考案してこそ。
謎ルールで一戦を交え、無事私が勝利しました。
ゆったりした時間を過ごせるお宿なのに、ひとつひとつが濃厚すぎて、なんだかあっという間に時間がすぎてゆきます。

醤油を味わい尽くす

楽しみにしていた夕食は、醤油づくし。
醤油といろいろなものを掛け合わせているから、飽きが来ないのがすごいところ。
お宿の菜園で二百種以上の野菜を育てているそうで、見慣れない野菜もちらほら。どれも新鮮でとっても美味しかったです。

ハモの炊き込みご飯に、もろみパウダーをかけていただくのが最高に美味しかったです。
しあわせな夕食でした。

醤油蔵の夜を満喫しようと思っていたけれど、ふかふかのベッドに飛び込んだらいつしか眠っていました。
一緒に来てくれてありがとうね、と何度も何度も言い合いました。

あさんぽで田原本を味わう

翌朝はからりとした快晴で、まだ夏の名残の暑さが感じられるくらい。
でも朝の空気は気持ちいい! 七時から、当主の木村さんに近くをご案内いただく贅沢なあさんぽに参加しました。

大きな道路や線路が近くにないため、聞こえてくるのは自然の音ばかり。言われて初めてそんなことに気がつきました。
宿のすぐ近くにある、村屋坐彌冨都比賣神社は、桜井市の大神神社と対になるような神社。

田原本町、唐古・鍵遺跡には訪れたことがあるのですが、その他の場所をゆっくり巡ることはあまりなかったので勉強になりました。

大神神社と、大和川。朝日に照らされる山の稜線、揺れる稲穂。
奈良はやっぱり美しい。

朝ごはんももりもり味わう

あさんぽでお腹も空いたところで、お待ちかねの朝食!
卵かけごはんと、ご飯のおともあれこれ。
ぴかぴかのお米がたまらなく美味しくて、二人しておひつを空っぽにしてしまいました。
ご飯のおとものお皿もぴかぴかだよ。大満喫でした。

どうしよう全然帰りたくないのですが、チェックアウトの時間が近づいています。
ふるき醤油蔵で流れる時はただ濃厚で。
本当に人生のご褒美だったな、としみじみ思います。

お土産にお醤油を買い、名残惜しくもマルト醤油を後にします。
村屋神社で御朱印をいただき、夫婦参りということで大神神社へ向かうことに。
大神神社へ向けて車で向かう途中、「ありがとう」と二人でハモったの、忘れたくないなと思います。
人生いろいろなことがあるけれど、これからも奈良を楽しんでゆきたいな。

えにしはつづく

大神神社のあと、もともと行ってみたかったお店へパフェを食べに向かったのですが。
なんとこちらでも、マルト醤油のもろみやお醤油を使った焼き菓子を取り扱っていて。
相変わらず引きが強い、奈良愛が強い二人なのでした。
というわけで橿原市まで足を伸ばし、dulce communicoのシャインマスカットのパフェを頬張り、大満足。

最高すぎる、奈良の旅でした。
頑張って生きてこ!