ひとひろ

日常より、もう少し深いところへ。ひびのこと、たびのこと、ならのことを綴ります。

ひとひろ

春の沼津・熱海旅(前編)

春は環境が変わることへの不安からか、揺らいでしまうことがある。
だから私はできるかぎり「桜休暇」と言い聞かせながら、休みを取ることにしている。
今年は修二会が終わってからも冷え込みが厳しく、桜はまだまだだったけれど。

旅に出た。久しぶりの、ひとり旅。
すこし前の話になってしまうけれど。
自分の輪郭を思い出すための、ささやかな旅の記憶を残しておく。

「疲れた、旅に出たい」と澱んだ顔でうめく私を見て、夫が言う。
「まずはスケジュールを入れてしまうんやで」
現金な私はその言葉であっさり明るい表情になって、いそいそと行きたい場所の予約状況を調べた。
残り一枠、奇跡的に空いている。
そうなってしまえば話が早い。
ワンピースはなかなか新調できないのに、新幹線のチケットを取るのはいつだって早い。すぐさま宿と新幹線がセットになった切符を探して予約した。
予約してから、気がついた。
同じ系列のホテルだけれど、予定と違う場所にあるホテルを予約してしまったことに。
一瞬青ざめるも、リカバリが効く範囲だと思い直して一安心。ぽんこつなので、疲れていると碌なことをしでかさない。
それでもずっと胸は高鳴っていた。行くぞ行くぞ、旅に出るぞ。

ばたばたと旅立つことを決めたので、計画をじっくり練る余裕もなく、気がついたら予定の日だった。
まあ普段からきっちり予定を練る方ではなく、行き当たりばったりなので大枠が決まっていればいいや。
出発前、夫が「ちょっといいお店に入りたいけれど、高いからラーメンでいいや」と選ばないように、とお小遣いをくれた。
私の行動パターンが、脳内の声も含めて完璧に予想されている……
なむなむと感謝しながら、いざ出発!
いつもと違う方向に向かう電車に揺られているのって、どうしてこんなに気持ちが昂るのだろう。
新幹線に乗るのは一月にあった初めての出張ぶりだ。浮かれるあまり、京都駅でつい、シンカンセンスゴイカタイアイスに目を奪われる。

迷ったら、楽しい方を選ぶ。我慢はやめよう、と夫の言葉に背中を押されて、チョコ味にした。
売店で買ってから新幹線に乗り込んだものだから、オモッタヨリハカタクナイアイスだったけれど、とってもおいしかった。

電子書籍を読んで、ふと気がついたら富士山が見えていた。
カメラを構えるけれど、富士山残念な写真コンテストで入賞できそうな写真しか撮ることができない。

悔しい思いをしているうちに、乗り換え駅の静岡駅へ到着する。
二十分の乗り換え待ちの間に、駅の売店を散策。大きな苺大福に目を奪われて、買った。

静岡駅は茶香炉でも焚いているのかというくらいお茶の芳しい香りが漂っていて不思議だった。
本当は静岡駅エリアも巡りたかったのだけれど、今回の目的地はちょっと違うので、新幹線を乗り換えて三島駅へ。
三島駅から、悩んだけれど沼津駅へ向かった。ラブライブの女の子たちが出迎えてくれる。聖地なのね?

そう、今回の目的地は沼津!
本当は三島に泊まるはずだったけれど、結果的にとても楽しかったのでよいのだ。

沼津駅からバスに乗り換え、学校が立ち並ぶエリアへ。
観光で立ち寄るエリアではなさそうだけれど、私はまっすぐに目的地を目指す。 新幹線の車中で、ずっと混雑状況のページを確認していた、あそこ。

静岡といえば「さわやか」!
ずっと行ってみたいなと思っていたのだ。
車がなくてもアクセスできそうな店舗が少なかったので、長泉店か沼津学園前店かで迷ったのだが、後者にした。
平日のお昼前に到着したのだが、やはり一時間半ほど待つという。
覚悟の上だったので、近隣を散策する。
事前に見つけていたフィナンシェのお店で、静岡の素材を使ったフィナンシェを手にいれた。

近くのローカルスーパーが楽しくて、ついぐるぐると巡ってしまった。旅に出たときはローカルスーパーが楽しいよね。
海が近いからなのか、干物コーナーが充実していたり、静岡以外にも良いものを集めていたりと素敵なスーパーだった。
せっかくなので静岡のみかんジュースを手に入れる。ゲストハウス旅だったら食材を買って調理したりも楽しそうだったのだけれど。
それでもまだ時間があったので、店内が落ち着いたのを見計らい、さわやかの店内でしばし待つ。
漂う香りがすでに美味しくて、ここにいるだけで「さわやかに行ってきた人」の香りになっちまうな……と内心思っていた。

そしてついに呼ばれて、これですよ。
小食の民なので、げんこつハンバーグは食べられずおにぎりハンバーグにとどめた(そして小ライス)ものの、満足感よ。
トッピングのワサビが美味しくて、お肉の重さをリセットしてくれるような感じ。
さわやかが食べてみたくて静岡を旅の目的地にした面もあるので、大満足だった! ハッピー!

案の定「さわやかに行ってきた人」の香りを漂わせながら、バスで戻って、ホテルにチェックイン。
この時点で三時を回っていたので、案外時間がない……
(今回の旅の反省点はここ。時間をうまく使えなかったタイミングが随所にあらわれる)
ええい、海が見たい! と重い身体を奮い立たせるも、ちょうどバスが出発したところで。
徒歩三十分ほどか、なら歩くか、とおもむろに私は海を目指す。

レトロな商店街のアーケード、不意に咲いていた桜、おしゃれな看板。
港に向かう道には様々な発見があって楽しかった。
あてどなく海を目指す。

すこし陽が傾きはじめた頃、目的地が見えてきた。
でっかいのでうまく写真が撮れない、沼津港大型展望水門「びゅうお」。
入場料100円で、沼津から見える海をのんびり眺めることができた。
ちなみに期待していた富士山チャレンジは、失敗。

お腹が空いたような気がしていたけれど、夕刻の港は人気もまばらだったので、また翌日来ようと思ってひとまず撤退。
電車に揺られて、熱海へ。
祝前日ということもあり、夜が近づいているのに駅前は賑わっていた。
駅からシャトルバスに揺られて、オーシャンスパFuuaを目指す。
今回の旅、JR東海のずらし旅を利用していたのでクーポンが付いていたのだ。
せっかくなのでちょっとリッチにスパで癒されたいな、と思ったのでわざわざ熱海までお風呂に入りにゆく。
大きなお風呂が大好きなので、露天立ち湯が最高だった!
海との境界が曖昧になるような設計、遠くに熱海の街の灯りがぼうっと光っていて、不思議な感覚。
海なし県に暮らしているけれど、やっぱり私は海が好き。

せっかくなので勇気を出して、アカスリに初挑戦することにした。
脱衣所の内線電話で予約をするのだけれど、なかなか繋がらず。
濡れそぼった姿で受話器を握り締めて立っているのがどうにも恥ずかしくて、これで繋がらなかったら諦めよう、と思ったら繋がる。
緊張しながら台に転がり、もうなくなるんちゃうかってくらいアカスリを施された。
自分がちびていく消しゴムになったような気持ち。でも終わった後は全身とぅるっとぅるで最高。

結構のんびり過ごしていたので、お風呂を上がると夜はとっぷりと更けていた。
ここから電車で沼津に戻って夕食……にするにも遅い時間。なんだか頭も痛いし、気分は最高だけど調子が悪いぞ。
この詰めの甘さ、私のひとり旅って感じだなとしみじみしながら沼津へ戻る。
結局コンビニでご飯を調達したけれど、最後の意地で東海地区限定のワサビおにぎりを買った。美味でした。
朝買っておいた大きな苺大福がここで効いてくる。サイコーに瑞々しくて、罪なる夜食だった。
離れるとなんだか寂しくなって、夫と電話。
旅先の夜、電話をする時間がなんだか愛おしくて好き。疲れていたので半分うたた寝しながらすこし話して、そのまま沈没した。

ゆるく、思うままにのんびりと。
やっぱり旅が好きだよ。続きます。