ひとひろ

日常より、もう少し深いところへ。ひびのこと、たびのこと、ならのことを綴ります。

ひとひろ

*暇を持て余したポンコツのお菓子作り修業

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忘れもしない。
小学六年生のバレンタインデー。
当時片思いをしていた相手に、何か渡そうと思った。
家の台所を借りることは難しかったので、友人の家でホットケーキミックスを混ぜて焼いたようなカップケーキを作った。
お世辞にも綺麗とはいえないそれを、不器用にラッピングして。
勇気を出して渡したものの、あまりに不格好だったからかなんだったのか、本命だとは一ミリも思ってもらえなかった。
しかも、後日「あれは義理じゃないねん」とリビングの電話越しに伝える羞恥プレイで思い出は幕を下ろす。
12歳の私は悟った。

お菓子作りは、やめておこうと。

そうして自らに誓った通り、28歳になるまで、お菓子作りを一切することなく私は生きていた。
何かの折に友人がお菓子を作ってきてくれたら、へらへらと餌付けされるポジションを守り続けた。
そもそも料理にしたって、結婚してからするようになったという体たらく。
奇跡的に料理は人並みにはできるということが分かったが、お菓子作りは峻厳たる壁のように、私の前に立ちはだかっていた。
バレンタインデー? トラウマだから、あげるとしてもショコラティエの力作を捧げるに決まっているじゃないか。

なんといっても、適当な人間なのである。
きっちりと材料を量って、手順を踏んでいくことが非常に苦手なのである。
お菓子作りに向いていない性格ランキング上位としか思えない。

そんな私がこの夏――16年間の禁を、破った。

どうして今さら急に? そう思うだろう。
暇だったのだ……

GWに引き続きの大型連休。
大概のことはやりつくしている。
外は灼熱地獄だし、社会はまだまだもやもやしているし、引きこもるの一択。
働いているときはあんなに時間が欲しかったのに、いざぽんと手渡されると戸惑ってばかり。
戸惑って錯乱して……やったことのないことをしようと思ってしまった。
よりによって、お菓子作りを!
Twitterで見かけたケーキを作る漫画がとても良かったり、おいしそうなレシピを見かけて羨ましくなったりしたから。
できるかできないのか、本当のところを見極めようと思ったんだ。

さあさあ、作り手は16年のブランクを抱えたポンコツ、そして我が家のオーブンレンジは夫が学生時代に使っていたもの。
調べたところ、2006年製……14年目に差し掛かろうとするベテランだった。

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どれだけ掃除しても消えない、謎のくもり。
ちゃんとしたオーブン機能がついているとそもそも認識していなかった。書いているのに。
もうね、何かが起こる予感しかないよね。
母に「暇すぎるからお菓子作りをしようと思う」と伝えたら「きちんと手順を遵守するのがコツだよ」と生暖かいまなざしをいただきました。

そろそろ、早く結果を書けよって思われそうだから、さっさと載せるね。

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意外とちゃんとできました~!
(KALDIのレモンバッグに入っていたお皿、めちゃくちゃ可愛いでしょ)

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……おや、コバちゃん、このケーキの生地の不自然なはがれ方はなんだい?

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おしゃれ心で載せたレモン黒こげやがな。

プレーンなパウンドケーキ、焼きあがった後に自家製レモンシロップを染み込ませてみた。
一晩おいて食べたら、最初の姿は絶望的だったけど、お味は普通においしかった。
やわらかくするためにバターをレンジにかけたらどろっどろに溶けたり、多分混ぜが足りなくて生地がぐちゃぐちゃになっていたのも、なんとなく帳消しだ!

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調子に乗って、翌日に第二弾。
この見た目がぐだぐだな感じに、私のポンコツ具合を感じてほしい。
マフィン型の径が大きかったから、これだけしかできなかったんだよね……
お味はおいしかった。喜んで実験台になってくれる夫もおいしいよと言ってくれた。
16年のブランクを抱えた私はポンコツだけれど、14年間現役のオーブンは非常にいい働きをしてくれている。
そりゃそうか。前者はブランクだけど、後者はずっと働いてくれているんだものね。

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むきになって、毎日汗だくで泡立て器をぶん回している、第三弾。
紅茶のケーキ。
切る前の写真を撮り忘れてしまったのだけれど、真ん中でさっくり割れていて、綺麗にできた。
手際もそれなりにいい感じにできた。
あれ、もしや、やろうと思ったらできる……? という気持ちになってくる。
すぐに調子に乗るんですこのポンコツ。

我ながら調子に乗っているとは思うけれども、大人になって作ったお菓子は、普通においしい。
ホットケーキミックスを混ぜて焼いただけのカップケーキだったり、板チョコを湯煎して再び固めてアラザンを載せただけのチョコレートだったり、思い出の中にあるお菓子はどれも微妙な味だったのに。
(今でも私はアラザンが苦手。なんやねんアラザンって)

自分にはできないって呪いをかけていたんだなと思う。
できないのではなく、やろうとしていなかっただけ。
そのことに16年かかって気付けただけでも、やってみた甲斐があった。

今日も私は、汗だくで泡立て器をぶん回す。
あの頃のトラウマも悔しさも、全部全部かき混ぜて。
ベテランのオーブンでがんがん焼いてしまえば、いつかはきっと消えてなくなるはず。
負けず嫌いなポンコツの修業は、まだまだ続く。

ゆのじ

お題「手作りしました」