ひとひろ

日常より、もう少し深いところへ。ひびのこと、たびのこと、ならのことを綴ります。

ひとひろ

海なし県民、海の旅 vol.1

もう夏は終わろうとしているけれど、七月に行った、すこし早めの夏休みの話をしたい。
今回の登場人物は晴れ男と晴れ女、そして二人は海なし県民。
目指すは瀬戸内、海の旅。
旅のおとものカメラは、もうすっかり馴染んだX100V。

一日目

きっかけはあまりにもシンプルだった。
夫が好きだから見はじめた、『水曜どうでしょう』。
四国八十八ヶ所を巡る旅でしばしば映る、美味しそうなうどん。
実は香川をじっくり旅したことがない私は、どうしても本場のうどんを食べてみたくなった。
「いつかうどん旅をしたい」と漏らしたら最後、計画名人の夫によって四国旅のプランが作られていた。いつもありがとう。

気付いたら、夏に向かって走り出していたというわけだ。

今回は、ホルダー役を買って出てくれたコバちゃんも一緒に。

気が付いたら明石海峡大橋を渡って、淡路島。
海なし県民、目の前に広がる海に、大はしゃぎ。
いつもと違う景色に胸を高鳴らせているうちに、最初のうどんスポット、山田屋へたどり着く。

うまい!
一度茹で麺をいただいたことがあるけれど、お店で食べるのはやっぱりおいしい。
コシがきいた麺をもちもち、ぺろりと食べてしまった。

琴電を見つけた。

やっぱり、香川に来たので行っておきたい、こんぴらさん
奈良からの移動は思ったよりも時間がかかるし、うどんでおなかが満たされていてすこし眠たい。
そんな我々の眼前に立ちはだかる階段である。

しんどかったのだけれど、森の中をのぼっていくのには割と慣れている自分がいた。

香川は山の形が急峻で、奈良の景色とは全然違う。
同じような田園風景でも、ぽこんと現れる山が、なんだかよい。

慣れていても、疲れないわけではない。
実は全行程のぼっていないにも関わらず、暑さもあって正直へとへとに。

すかさずご褒美、むしろここに行くためにこんぴらさんを目指したといっても過言ではない。

なんとも美しい、資生堂パーラー神椿のパフェ!
資生堂パーラーのレストランは、西日本ではここしかないのだ。
まさか憧れのお店に旅先で行けると思っていなかったので大興奮だった。
甘いものが年々食べられなくなるなどと普段はこぼしているが、本当にぺろりと平らげてしまう。
桃とブルーベリーがあしらわれた季節のパフェは、瑞々しくて疲れた身体に甘露のように染み渡る。
今思い出してもまた食べたい……
夫が食べていた神椿パフェも、和の素材と香川のおいしいものがぎゅっと詰まっていたようだ。
ずっと「おいしいクッキーのような何かが入ってるけどパフェの説明には書いてない」と呟きながら食べていた。
資生堂パーラー、特筆しないものもとびきりおいしい。

最高のパフェで疲れが吹き飛び、ホテルに向かおうかと話していたところ。
パフェを食べている間に、テラスで何者かに餌をあげているカップルがいたのが気にかかった。
店員さんに聞いてみると、なんと野生の小鳥、ヤマガラがやってくるらしい。
ひまわりの種を分けてもらい、しばし待ってみることにした。

来ないねえと眼前の木々を眺めていたところ、隣で夫が声をあげた。

来た。本当に。
もちろん気が動転して初回は写真が撮れなかったので、これは何度目かに撮れたもの。
「どんな感じ?」
「軽くて……カブトムシみたいな感じ」
脚のひっかかりがどうもそんな感じらしい。
動揺したコメントが面白くて笑っているうちに、おやつ目がけて次々とヤマガラが飛んでくる。

最初は怖がっていた私も、手の上にお迎えすることができた。
軽くて……カブトムシかどうかは分からないが、小さないのちって感じがした。
なんやかや言いながらひまわりの種をすべて献上する。すごく楽しい時間だったな。
この時の様子を夫が動画に収めてくれたのだけれど、何度見返しても笑える最高傑作になった。
名残惜しくも、ヤマガラに別れを告げて、高松市内へ向かう。

他愛もない話をしながら、時に歌いながら、車は市街地へ。
ビルの合間に見えた空が、まさに夏そのものをあらわすような雲で満たされていた。
ホテルにチェックインして、パフェをこなすために夕食の前に散歩へ行くことにする。

高松市商店街はアーケードの長さが日本一だという。
そのうちの丸亀町商店街のドーム型天井が美しい形をしていた。高さも日本一らしい。
たくさんのお店が連なり、活気のある商店街だった。

あ、ヤドンだ。

そう言っていた矢先、頬をぽつりと雨が打つ。
晴れ男と晴れ女、よもや雨が降るとは思っていなかったので驚いた。
だってさっきまであんなに青空だったじゃないか。
みるみるうちに雨粒の数が増えるけれど、空は明るいままだった。不思議なお天気雨。
私は傘をホテルに忘れてしまったので、ひとつの傘に肩を寄せながら、雨が止むのを待つ。
「これでやまんかったら俺は怒るで」と晴れ男、拳を握る。

お天道様もそれは困ると思ったのか。

おおきな、大きな二つの虹を、高松城の上に掛けてくれた。

奇跡なんて言葉を、やすやすと使いたくはないと思っているけれど、今回ばかりはお天道様のサプライズだと思った。
一緒に虹を見られたのがなんだか無性に嬉しかったな。

高松港まで足を伸ばして、夕方の海を満喫する。

せっかくなので、帰りは琴電に乗ってみることにした。
駅のホームからお堀が見える、というかお堀にホームがかかっているのはなかなか珍しい光景だと思う。

市街地に戻り、四国料理を味わえる居酒屋でゆっくりと夕食を楽しんだ。
やり切ったぞという気持ちでホテルに戻り、あっという間に就寝。
まだ一日目。旅は続く。