ひとひろ

日常より、もう少し深いところへ。ひびのこと、たびのこと、ならのことを綴ります。

ひとひろ

*素敵なまちに住んでいる

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素敵なまちに住んでいる。
歩けばいつしか世界遺産。
自然と歴史と文化がまじりあう、美しいまちだ。

こもりきりの日々に、突然息苦しくなったから、歩くことにした。
衣替えを急いでした勢いのまま、リネンの半袖ワンピースに薄いカーディガンを羽織っただけで飛び出した。

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日が傾きはじめているからか、外は思ったよりも肌寒い。
初夏の爽やかな風がワンピースの裾をさらってゆく。
緑って、こんなに濃かったっけ?
季節がいつの間にか移ろっていることに、今さら気がついた。

「日没」と検索バーに打ち込むと、ちょうど一時間後の時刻が返ってくる。
疑問をなんでもぶつければ、簡単に答えが分かる時代だなあ、と感慨深い気持ち。
なんでもいいや。
今大事なのは、しばらく散歩ができること。

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悩めるときは、二月堂に行け。
誰に教えられたわけでもないけれど、足は勝手にあの階段を目指している。
石畳が、強い光に照らされていた。

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いつもの夕暮れ時なら人でいっぱいの二月堂の舞台には、ほとんど誰もいなかった。
がらんとした舞台から、遠くを見渡す。

風が強く吹き抜けて、灯篭を揺らしている。
遠くの方から、かすかに鐘の音が聞こえた。
お堂の中から低く、強く聞こえる、祈りの声。

何度だって思う。なんて素敵なまちなんだろう。
愛おしさがこみあげてきて、なんだか泣きたくなった。

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ちょっと遠回りをして帰ることにする。
何度も歩いた散歩道は、通るたびに違う発見がある。

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身体が冷えてきたのを感じて、帰路を急ぎはじめたところに、思わぬトラップ。

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虫に刺されながら、しばらくお写真を撮らせていただいた。

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ありがとう、またね!

大仏殿の前を通って行こうと思いついて歩いていると、別の場所で見かけたおじさんとわんこに再会。
嬉しそうに尻尾を振るわんこに少し待ってねとおじさんは断り、大仏様に静かに手を合わせていた。

何度か書いたかもしれないが、さりげない祈りのシーンをよく見かけることがある。
日常の中に自然と溶け込んだ動作が、私はとても好きだ。
おじさんを見習って、私も手を合わせる。
早く穏やかな日々が戻ることを、願う。

さあ、そろそろ帰ろうか。

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帰りにまた、おじさんとわんこに出会った。
どうやらご近所さんのようだ。
ねえ、君も私も、おじさんも。素敵なまちに暮らしてるよね。

静かな祈りに満ちたこのまちを、私は愛してやまない。

ゆのじ