湘南新宿ラインって響きが好きで、東京に行くとつい乗ってしまいたくなる。
駅名を告げるイントネーションの違いにわくわくする。
晴れ女の梅雨の旅は、折り返しの三日目。
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三日目 横浜 晴れ
連日各所の雨予報を覆し、関東入りしてから傘は一度も開いていない。
この日も蒸してはいるが、天気はもちそうだった。
久しぶりに会う友人と落ち合うため、横浜から新橋を目指す。
なんだかんだ会うのは五年ぶりくらいだったので、わくわくしながら新橋駅へ降り立った。
玉虫色の鞄を持っているからね、と事前に連絡していたからか、すぐに落ち合うことができた。
鞄の奇抜さもそうだが、荷物が少ないことに驚かれる。これはまた別記事でまとめてみたい。
三日目 新橋 晴れ
わざわざ新橋を目指したのには理由がある。
あれ、なんだか見覚えのある顔。
そう、東京の奈良へやってきた!
昨年リニューアルオープンした奈良のアンテナショップ、奈良まほろば館へ行きたかったのだ。
友人は奈良にも何度か遊びにきてくれているので、奈良から来て奈良に行きたいという酔狂なリクエストにも気軽に応えてくれた。ありがたい。
一階のショップの売り場をぐるり。
奈良在住でも唸ってしまうほどの充実のラインナップだった。
個人的に熱くなったのが、毎週金曜日に入荷する、宇陀市の銘菓「きみごろも」。
メレンゲがふわふわの不思議なお菓子は、売り切れていて買えないことも多い。食感とやさしい甘さにやみつきになること間違いなしのお菓子なのだ。
土曜日の午前中にはまだ在庫が残っていて、つい買いたくなってしまう。
友人に、春鹿の燻製の奈良漬を激推し(奈良に来てくれたときも買ってもらったな……)したり、味噌や醤油の品揃えを褒め称えたり、なかなか怪しいやつになってしまった。
一階のカフェも気になるところだが、今日の我々はひと味違う。
二階へ向かい、レクチャールームで金魚すくいをしているのを横目に、目的地へ。
レストランTOKiは、奈良の名店アコルドゥ(akordu)が運営するレストラン。
奈良のお店はミシュラン二つ星を獲得されたこともあり、予約でいっぱいのようだが、こちらでも素敵なお料理をいただくことができる。
お料理のジャンルでいうとモダンスパニッシュなのかな?
奈良、東京、スペイン【花は咲き、緑深まる】とつづられて始まる初夏のコースのはじまり、はじまり。
メニューの上に置いてあるものは、最後の最後に聞いたところ、薬師寺東塔の修理で出てきた過去の欠片だそう。
こんないいところでお料理をいただくこともなかなかないので、背筋を正して緊張気味の私。
香りごぼうのスープの上に載っているのは、大和当帰のシャーベット。
内心来たぞ!と思ってしまったのは内緒。トキドキトウキ、最近は大人しくしているけれど出会うと嬉しい。
初めていただいた鴨のハツ、舌ざわりの滑らかさにどきどき。
鯛と醤とメニューに記されたひと品は、万葉集を下敷きにしたものだそう。
醤酢(ひしほす)に蒜搗(ひるつ)き合(あ)てて鯛願ふわれにな見えそ水葱(なぎ)の羹(あつもの)
句の詳細まで伺っていないので真の典拠がこれかは定かでないけれど、お話の内容から察するとこの句。
お料理を運んでくださった方が茶目っ気たっぷりに紹介してくれて、ほっと心がゆるむ。
鯛が食べたいのにスープなんか持ってきてくれるなという内容の通り、鯛をいただいてからスープが出てくる流れだった。
器にも奈良っぽさが覗いて(食べ終わったら底から丸茄子の絵が出てきた)どこまでも奈良を味わっていられる。
三輪素麺の製法で作られたパスタ、ルッコラの青さとマスタードのぴりっとした辛さがおいしくてつるりといただいてしまった。
メインの大和肉はとろけるおいしさ。
デザートは大和茶のティラミス。添えられたシャーベットが感動するほど爽やかで美味しかった!
ひと皿ごとに創意工夫が光り、奈良を想ってときめきがやまない時間だった。
なんてかっこつけて書いてみるけど、すっっごく美味しかったし楽しかった、という感想に尽きる。
奈良が好きで暮らしているけれど、こうした非日常から感じる奈良というのもまたよいもので。
帰りがけにお声をかけていただいて、奈良に住んでいると話した折、いつかアコルドゥにも行けるように徳を積みますと思わず言っちゃった。徳を積みます。
東京で味わう奈良、最高だった。
三日目 上野 くもり
まほろば館を後にすると空は薄曇りに。
降らないことを祈りながらホテルに荷物を置き、次なる目的地へ。
東京国立科学館でやっていた「宝石展」へ駆け込み!
終了間近だというのにすごい人出で驚いた。
ただ宝石の美しさを展示しているだけでなく、科学館の名のもとに宝石の成り立ちや輝きの理由を展示していて興味深かった。
しかしいかんせん展示物が小さく、写真撮影ができるためにショーケースの前には人だかり……
正倉院展よりも大変だなと思いつつ、間を縫うようにして輝きを追った。
そして宝石を前にした、老若男女の時折俗っぽいコメントが面白くてつい笑ってしまった。
おつかれさま。
さすがに歩きすぎてふらふらになった二人、しばし粘ってたどり着いたよ、みはしに。
東京に行くなら、絶対に食べたかったみはしのお雑煮~~!!
あまりに私が言うものだから、友人もお雑煮を頼んでいた。
お出汁の優しい味と、ふわっふわの卵に疲れがほぐれてゆく。
欲深くわがままなので、あんみつもテイクアウトしたよ。
期間限定の夏みかんあんみつ。
あんみつをつつきながら、会えなかった時間を埋めるようにおしゃべりをした。
めっきり夜更かしができなくなった私はいつしか沈没。
東京の夜は更けてゆく。
最終日に続く。